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2007.09.16

鷺しらず

京都の中心を流れる鴨川、この鴨川は出町柳の加茂大橋のところで、高野川と合流しているが、その地点より上流を加茂川と表記する。別に川としては同じなのであるが、上流と下流で呼び方が違う。

鴨川といえば、夏の夕方になると川風で夕涼み、ニ条から五条にかけて、川の西岸の店が川に向かって床を伸ばす、納涼床が有名。公害が問題になっていなかった昔は、鴨川で友禅流しも行われていた。下流の鴨川のほうはともかく、加茂川はまだ自然が残っており、鷺などの水鳥もすんでいる。

<三条大橋から鴨川の河原を望む>

Sanjyoukamogawa

唐突であるが、有名な鉄道唱歌の五十三番は、以下の通りである。

「扇おしろい京都紅  また加茂川の鷺しらず 土産を提げていざ立たん あとに名残は残れども」

「扇おしろい京都紅」というと、京都祇園や先斗町に行き交う舞妓さんか、芸妓さんを思い出す人も多いだろう。筆者も一度だけ、先斗町歌舞練場まで「鴨川をどり」を見にいったことがある。小生、阪神間に住んでいた頃に、よく京都に来ていた。古い都へのあこがれもあり、寺をまわるのも好きだったので、自然そういう生活になった。但し、先斗町や祇園は歩くだけで、舞妓さんも歩いている姿を見るだけである。せいぜい、夕方になると、木屋町の焼き鳥屋さんで飲んで帰ってくるくらいで、祇園などにはまったく縁がない。今回も書きたいのは「鷺しらず」のほう。

<だらりの帯の舞妓さん>

Obi_maiko

ここに出てくる「鷺しらず」とは、昔の加茂川のお土産として売られていた、佃煮の一種である。鷺は、川などで小魚や両生類、昆虫などを捕まえて食べているのであるが、最近は護岸工事とかで鷺が住むような河川もだいぶ減ってしまった。その鷺といっても、青鷺もいるが、白鷺が殆どである。

「白鷺は小首かしげて水の中」と高田浩吉の白鷺三味線でも歌われているが、鷺はたいてい水の中にいる。鷺は加茂川でも、細い脚でたって、時々水面にくちばしを突っ込み、えさをついばむ。川幅が狭く、流れの急な場所とか、岩場にはあまりいないようだ。

<青鷺(一番左)と白鷺>

Shirasagi

白鷺は、知多半島でも田んぼのなかや、ちょっとした川によくいるし、河和の軍港跡にもいるのを目にしたが、以前兵庫県に住んでいたときにも、芦屋川の上流などで見かけた。さすがに東京では見たことがないが、千葉では今でも田んぼや沼地などにいるようだ。

<河和の軍港跡にいる白鷺>

Gunkou

「鷺しらず」は、水の中で朝からえさをついばんでいる鴨川の鷺も、見落としてしまうほどの小さい魚、鮠 (はや、はえ)の稚魚を、煮たった湯に通して、薄口しょうゆ・砂糖で煮つめたものである。それが、有名な、京都名物の「鷺しらず」であった。
「鷺しらず」は今でもあるようだが、鴨川も、護岸工事などで、現代的な川になってしまい、小魚も住みにくくなったため、京都みやげの代表の座から、おりてしまっている。

鮠 (はや、はえ)は、コイ科の淡水魚のうち、中型で細長い体型をもつものの総称であるが、オイカワ、ウグイなどが代表品種である。鮠は「柳鮠(やなぎばえ)」という季語もあるように、柳の葉の芽吹く春に川を上って産卵し、夏にその稚魚が川を下りるという。

<オイカワの幼魚>

Oikawa

「鷺しらず」は幕末からつくり始められたというが、残念ながら今では殆ど作られなくなった。実際小生、これを買ったこともなければ、売っているのを見たこともない。京都の高島屋で、川端道喜のちまきを買おうとして、買いに来たときには、いつも売り切れていたという小生にとっては、幻の佃煮かもしれない。

参考サイト:『京菓子処 鼓月』HP 「京ことば通信」<2001.9>  http://www.kogetsu.com/kotoba/index.html 

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